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 はじめに


小さなうつわの会・誕生物語

「小さなうつわの会」が生まれる流れは、1972年、マリア様の月の5月、観音様御縁の日の18日に、アメリカ、コロラド州デンバーで、隣家の聴覚障害の老夫妻との出逢いから始まりました。作品集『ライラックの垣根の家の物語』にその日の事を書きました。
 帰国後、住まいの近くに、視覚障害の施設のあることから、視覚障害の織田津友子さんとのご縁を戴きました。そのご縁が深く結び合ったのには、1978年3月3日のお雛祭りの日、知的障害者の施設、富士聖ヨハネ学園の園生の陶芸作品「小さなうつわ」に津友子さんが出逢った事からでした。その時の事を記した文です。

 つゆこさんは、こどものときに目が見えなくなりました。学校を卒業した後に、電話と関わるお仕事をするために勉強をしていました。
 3月3日、つゆこさんといっしょにおひなまつりをすることにしました。
 色とりどりのお皿に、色とりどりの五目ずしと色とりどりのご馳走をのせました。
 つゆこさんは、一皿ずつお皿のふちを手でさわりながら、楽しんでいました。
 そろそろ食事が終わりになるので、台所でお茶を入れてもどってきたとき、つゆこさんがおつけものをいれたうつわをしっかり胸にだいているのです。
「どうしたの、つゆちゃん」とたずねても、だまってじっとしていたつゆこさんは、しばらくして、ゆっくり、話しはじめました。


「今日、いろいろきれいなうつわを見せてくださったけれど、こんなにすてきなうつわはなかったわ。暖かくって、優しくって、持っているだけでうれしくなるような・・・・」
 でも、そのうつわはゆがんでいました。そして、ひびがはいっていました。それは、一年前に忍野村の富士聖ヨハネ学園の学園祭でみつけたものでした。その時、私もつゆこさんとおなじことを思っていました。そのうつわをお友だちにいくつか買ってくばったあと、一つだけひびがはいっていたので家に残っていたものでした。
 そのうつわをまん中にして、私たちは、幸せいっぱいでした。

 4月の末、家の外で「ここだよ。ここだよ。」という子どもたちの声がしました。
 戸を開けると、つゆこさんが4、5人の子どもたちに囲まれて立っていました。
 つゆこさんが一人で歩いてくるには、階段が多くて危ないところなのにです。
 多分、つゆこさんが、楽しんで考えたことだったのでしょう。思いがけないことに私が驚いているのが嬉しいらしく、にこにこしながらショルダーバックの中から茶封筒を取り出して言いました。
「4月からお勤めして、今日はじめての給料日なの。このお金を富士聖ヨハネ学園の生徒さんのうつわに使って下さい。」
 道あんないをしてきた子どもたちもいっしょになってうれしそうでした。(HPNo.01 絵・おはなし)







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