空の神学
柳田敏洋
柳田敏洋神父様の「聖母マリア」のお話の後で、「空の場」についてお聞きしたときに頂いた原稿です。
イエスの十字架上の死と復活は空(空っぽ、虚無、深淵)との和解のしるし。
☆人間の存在の根底には空が横たわっている。
通常それは、孤独の持つわびしさや、あるいは空しさの体験として現れてくる。
また、病気による肉体の苦痛や機能の喪失感として、あるいは事が思い通りに運ばずに失敗し挫折感を味わったり、愛情が実らなかったときのやるせなさや虚脱感、愛する者が奪われたときの悲痛感は、この深淵や虚無としての空を指し示すものである。
自分の存在や、自我意識が消滅してしまうことや、他者から忘れ去られてしまうことへの恐れは非常に深い。(死は人間存在の根底に厳として横たわっている空を最も象徴的に示すものである。しかし肉体的死そのものが、空と同一なのではない。)☆人間はこの空を避けよう、覆い隠そう、取り除こうとして、自我(エゴ)の拡大・安定・増強を図ろうとする。
これは、もの・金・権力・能力・知識などを増し、成功を求め、人からの評価を高めようとの欲となって現れる。そこから自我を世界の中心に据え(プライド)、他の人やものを手段と見なしコントロールしようとするエゴイズムが個人的・集団的レベルで生じ、これが罪や悪と呼ばれるものを生み出す。
しかしどのように避けよう、覆い隠そうとしてもこの空から逃れることはできない。
☆イエスの死により、私たちは神と和解した(ローマ5・10)と言われる。
しかしそれは同時に、空との和解である。
私たちにとり、底無しの虚無・深淵と思われていた人間存在の根底に横たわる空は、神の場、真の愛が営まれる場、本当の命が息づく場であることが明らかとなった。
私たちはもはや死を恐れることなく友として迎えることができ、空を覆い隠そうとしてエゴイズムに走る必要はない。
空を自分の人生の大切な一部として受け入れ、無償の愛を生きる喜びのうちに人生を歩むのである。
☆それは隣人愛の次元を広げてゆく生き方である。
つまり、死や空しさ・虚無をも隣人とて愛してゆくのである。
これはあらゆる人へと向かう隣人愛の土台となる。
同時にこれは、この世において、どれほど親密な愛情や友情、深い絆で結ばれた家族や共同体であっても、それが空からやってくる寂しさやわびしさを埋めることはできないと悟ることであり、もしこのわびしさや寂しさを恐れずに引き受けてゆくなら、それが「侘(わ)び」や「寂(さび)」という味わい深い境地へと至らせてくれるのに気づいてゆくのである。
今の私達の時代は、早く決着を着けようとするところがある。
これは、自分にとって敵か味方か、これは、満足させるか、させないか。
満たされない心を即座に満たしたい。何かすぐ、空っぽの心を満たしたい。というところがあるように思う。
自分に満足がいくかたちで簡単な解決を求めようとする
これは、エゴの世界のエゴのやり方であるかも知れない。
神の思いから離れるというあり方に、エゴを中心とする生き方がある。
神様を認めていても自分にとって都合のよい神を求めようとする。
そう言うところに信仰を限定しようとする。
だからエゴの強い人は、ご利益的宗教に走っていく。
自分のことしか考えない信仰では、本当の信仰は深まっていかない。
もしも私達が、マリア様のうちに深い信仰の模範者としての姿を見ていこうとすれば「マリアはこれらの出来事を全て心に納めて、思い巡らした。」というマリア様の姿が大切です。
それは、簡単に解決をもとめるのではなく、どういったことかわからないが、このようなわからなさという不安定をそのまま引き受けていく。
それを丁寧に時間をかけながら、これは結局どういうことなのか尋ね続けていく。
こういう姿勢です。
ここには、大きな心、深い愛の心が必要かもしれません。
しかしそういう中にあって、だんだん、だんだん神の私に対する望みとか、思い、また、どこに導こうとなさるのか、ということが気づけるようになる。
そういう中で信仰というものが、清められ、深められていくのではないか。
つまり自分を中心とする、自分の利害を第一にする信仰から、神様を中心にする信仰へと深まっていく
空を引き受けつつそこから人を愛してゆくとき、その関わりはとらわれないアガペーの愛の受肉となってゆく。
☆空は人間がその人間性を真に生きぬくためになくてはならないものであり、この空において人間は神と出会い、そこにおいて「神なる人」となるように招かれているのである。
2005年08月15日 (HP No05 P09)
「空」というテーマは、小さなうつわの心です。小さなうつわは、毎日、夕日に「また、明日」と、祈り、そして、ある日、神様の御傍にいけました。そして、透き通ったうつわになりました。その小さなうつわが、私達の会の導きの天使様でした。
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