作品集 『ライラックの垣根の家の物語』

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 五月の朝の明るい太陽の下、ロッキー山脈の山々を背景にライラックの垣根の満開の花に囲まれて老夫婦と共に過ごした時間は、なにもかも忘れてその時間だけの世界という不思議なひとときでした。それにしても、盗まれた話しばかりだったのです。


 胸いっぱいのライラックの花を抱いて(お礼にケーキを焼いて持って行こう)とうきうきとした心で家の戸を開けた私の頭の上から『罪を溶かす愛』という言葉が入ってきました。それと一緒に、娘が花を盗んだことを謝っていなかったことも思い出しました。


 ( 『罪を溶かす愛』って、罪の意識を忘れさせてしまうこと?今の私のように? )(そんなことではない・・・)(今朝の私の娘への態度、罪を溶かすどころではない。罪人を作っているようなもの。)(盗むには盗むわけがあるのに、その心を受け取りもしなかった・・・・)(そんな私に何故この隣家のご夫妻の優しいこころづかい・・・)この優しい心遣いができていたら、娘は花盗人にはならなかったろうに・・・


 私はすぐにケーキをつくりはじめました。白地に紫色のライラックの花をデコレーションしました。
 作り終わると、授業の終わった娘を学校に迎えに行きました。車の中で、朝の出来事を娘に話しました。「ごめんね」の言葉をそえて。明日は学校にライラックの花をいっぱいもっていけることを娘に伝えました。そして、これから、お隣にケーキをもって謝りに行きましょうということにしました 娘は、嬉しそうに車窓の風を顔に受けて歌を歌っていました。






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